ムサコこと、武蔵小山。この町について知っていたことといえば「アーケード街がかなり充実している」ということでした。しかも、そのアーケード街は全国の商店街の人々が視察に訪れるほど活気があるという…。
駅を降り目の前に伸びているウワサの大型アーケード街の入り口に立つと、おお、行き交う人の数がスゴイ!エネルギッシュで、朗らかな空気に満ちている。
通称「パルム」といわれる武蔵小山商店街は1947年の設立。アーケード街は1956年にオープンしました。当時は「日本初の大型アーケード街」といわれ、完成時は全長470m。「東洋一のアーケード」と評判を呼び、その後も延長され、現在では武蔵小山駅から中原街道まで全長約800mという巨大なアーケードを形成。東京で最も長く、全国的にもトップクラスの長さを誇ります。屋根付きだから、雨の日も傘も必要なし。
パルムに軒を連ねるのは約250のお店。業種もさまざまなジャンルの飲食店をはじめ、ベーカリー、書店、服飾洋品・雑貨店、美容院、花屋、パチンコ屋、靴屋など、ありとあらゆるお店が集結。見て歩くだけでも、このアーケード街は本当に楽しい!
こう書くと、武蔵小山がアーケード発祥の地っぽくなりますが、日本で初めて「アーケード」を採用したのは、とこかご存じでしょうか?それは帝国ホテルなんですね。1890年に世界の要人を迎える迎賓館として開業したこのホテル。1923年には建築家フランク・L・ライトによる「ライト館」が完成し、時の支配人、犬丸徹三氏がこのライト館に直結したショッピング街を提案し「アーケード」という名称を使ったのが始まりなんですね。
パルムを歩いてみると、人の往来が途切れることなく、閑散という言葉が無縁であることがよくわかります。気になったのは、アーケードの屋根に吊るされている龍のオブジェ。これって風水の効果を狙っている?お客さんを呼び込むために一役かっていたりして…。なーんて思って調べたところ、この龍は商店街の人たちの発案で、10年以上前にゴールデンウィークのために作られたものだそう。ゴールデンから黄金、黄金といえば、黄金色のボディをもつ龍という発想で、地元の看板屋さんが龍の顔を作り、胴体は鯉のぼりを作る会社に製作を依頼されたのだとか。毎年、春を迎えると龍がパルムの天井からアーケードを行き交う人々を見下ろしているそうです。
昭和っぽい!と思わず声に出てしまったのが、靴屋さん。 外観のテントのカラーやデザイン…。昔、運動靴を買いに行ってた町の靴屋さんが思い出され、懐かしさを感じずにないではいられません。全国の商店街はチェーン店が増え、個人経営のお店の方が少なくなっている傾向にありますが、ここパルムもそう。こんなお店がずっと長く続いていきますように、と願いながら趣のあるお店の外観をじっくりココロに焼き付けました。焼き鳥屋の店頭ではジュワーとタレがしみた焼きたてのトリを豪快に口に運ぶ、おとーさんが。通りを笑顔で連れだって歩く部活帰りの女子高校生たちの姿も。パルムには気負わない空気がに満ちあふれているのです。
今でこそテレビや雑誌で特集が組まれるなど、売れっ子商店街のパルムですが、振り返れば地元の復興にかける人々の情熱に支えられて発展してきました。武蔵小山一帯は関東大震災や東急線の開通などで人口が急増したところ。人が集まるところには商店街ありきで発展していきましたが、1945年の東京大空襲で大きな打撃を受けます。町の人々は焼け跡にバラックを建ててお店を始め、復興を遂げていったのです。
忘れてはならないのが満州国(現在の中国北東部)へ、商店街の人々が「荏原郷開拓団」として新天地を求めて移ることを余儀なくされた歴史です。戦争が長期化することで、軍需産業を推進する日本政府の政策によって商売は廃業となる…そう懸念した武蔵小山の商店街から満州に移住したのは1039人。しかし、満州で待っていたのは過酷な生活。中国東北部はとくに厳寒の地であり、東京の寒さとは比べものになりません…。敗戦後はソ連軍が侵攻し、女性の中には暴行を受ける前に集団自決を選んだ人もいたそうです。そして戦後、帰国できたのは80人だったそう。このあたりの事情は「東京満蒙開拓団」(ゆまに学芸選書ULULA5)という本に詳しく書かれています。
満州から帰国した人たち、そして戦後の復興に奔走した人たちが現在の活気あふれるアーケード街を見ると、どんなに喜ぶでしょうか。中小企業庁の「がんばる商店街77選」にも選ばれたパルム。「シャッター通り」という言葉が珍しくなくなった日本で、人を呼べる商店街としてこれからも注目していきたいと思います。
出典:武蔵小山商店街「パルム」 http://www.musashikoyama-palm.com
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