賃貸物件を退去する時、入居者は「原状回復」する義務があります。敷金の返金・退去精算のトラブルは賃貸の契約でよく聞くことだと思います。この記事では「原状回復」とは何か?また原状回復義務の範囲はどこまでかなど、気になるポイントをしっかりと解説していきます。解約を検討している時だけでなく、入居する前に読んで頂けると、いろいろと対策が出来るのでおすすめです。では早速、解説していきましょう!※今回は「居住用」の賃貸物件について解説しています。
それでは早速「原状回復」についての理解を深めていきましょう。
原状回復とは、物件を退去する際、借りる前の状況に戻すことを言います。しかし建物は時間の経過によって損耗していくものです。全部入居者が直して返さなくてはいけないというのはフェアじゃないですよね。昔は原状回復の範囲について曖昧で入居者と大家さんとの間にトラブルが多く発生していました。この問題を改善する為に民法の改正や国土交通省によるガイドラインが制定されました。
では「入居者」は、なぜ原状回復しなければならないのでしょうか。まずは原状回復義務の法的根拠となる法律を見てみましょう。法的根拠は改正民法621条によります。
また国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では原状回復についてこのように定義しています。参照元:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
国交省の原状回復ガイドラインでは、改正民法621条で「経年変化」と表記されていた部分が「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少」とより具体的になっています。建物を賃貸にして貸し出せば、時間の経過と共に普通損耗するでしょ、ということが書かれています。つまり入居者の原状回復義務の範囲を「賃借人の故意、過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(きそん)」と明確に限定したことになります。あとは見慣れない「善管注意義務違反」が分かれば大枠は抑えられそうですね!
善管注意義務とは「善良な管理者の注意をもって保存しなければならない義務を負う」ことを言い、法的根拠は民法第400条によります。賃貸物件は大家さんに借りているものなので、引き渡しまでは管理者責任がありますよという内容です。この管理責任には「通知義務」も含まれており、例えば水漏れが起きているのに大家さんや管理会社に連絡せずに、下の階に水漏れが起きてしまった場合なども責任を負うことになります。
外部リンク デジタル庁:e-GOV「民法・第三編 債権」
堅苦しい内容ですが根拠は大切なので、長々と原状回復について解説してきました。さてここからは、具体的などこの傷や汚れが、入居者と大家さんどちらの範囲区分になるのかを解説していきます。場所や設備ごとに範囲区分を表にまとめました。
表のとおり、通常損耗の内容がはっきりと記載されています。つまり故意(損害が出ることが予想できるのに意図して行ったこと)や、過失(不注意で損害を与えてしまったこと)、通知義務違反(連絡しないと被害が拡大するのに放っておいた)の場合は通常損耗にはあたりません。特に喫煙者の方はタバコのヤニや臭いの付着は通常損耗に当たらないので注意しましょう。
外部リンク 東京都庁:賃貸住宅トラブルガイドライン
おや?鍵交換費用とクリーニング費用って取られてない?そう思われた方も多いはずです。 原状回復の基本的な考え方では、鍵の交換費用(入居者が紛失・破損してないもの)もクリーニング費用も、住宅の使用および収益に必要な修繕にあたり大家さん(貸主)が負担すべきものです。
鍵の交換については本来大家さんの負担区分ですが、その際ローテーションで中古の鍵と交換することが多いです。中古の鍵より新品の鍵の方がいいですよね、では新規の鍵に交換する費用ならば、契約時に入居者に負担してもらいましょう、という考えで契約時の初期費用に含まれることが多いのが現状です。初期費用を抑えたい場合は、鍵交換費用を外せないか交渉してみるのも良いでしょう。鍵の交換費用については関連記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
【関連記事】 賃貸で鍵の交換(シリンダー交換)を依頼した場合の費用
問題のクリーニング費用ですが、原状回復のガイドラインに特約を設けることで入居者の負担にしているケースがほとんどです。小難しい話になるのですが、クリーニング費用は建物の維持管理に必要な経費である為、貸主が負担する。ではその費用分として月2000円賃料を高く設定しようとなった場合、例えば半年しか住まなかった人は12,000円のみがクリーニング費用分になりとても足りません。一方で5年間住んだ人は120,000円もクリーニング費用分を支払うことになり、不公平になってしまいます。
その為、クリーニング費用分を賃料とは切り離して、別途請求させてくださいと特約を結ぶことで、入居者に費用を負担してもらっている。という理屈です。原状回復のガイドラインにおける特約は借主、貸主の合意があり、入居者に不利益でない場合に限り有効とされていますので、ほとんどの賃貸の契約にこの特約があります。
これまで原状回復についての考え方や法的根拠、原状回復の責任区分について説明してきました。いよいよ具体的にどのくらいの費用がかかるものなのかについて説明していきます。
例えば、1年だけ住んで壁紙に落書きをしてしまい、張り替えすることになった場合と、10年住んで落書きをしていた場合、費用負担は同じなのか?という問題が発生します。建物は時間の経過と共に損耗していくので長く住んでいる人の方が負担は少なくなるべきです。
ここで経年変化の考え方が重要になります。めんどくさいな…と思われるかもしれませんが、経年変化による損耗は大家さん(貸主)の負担ですので、経年変化そのものについてしっかり理解することが大切です。壁紙であれば6年など場所によって耐用年数が様々ですが、耐用年数が経過した後は残存価値が1円となるように考えます。具体的な内容を表にしますのでご覧ください。 縦軸は現存価値、新築や新規交換していれば100%、耐用年数の半分が経過されていれば50%がスタートになります。100%から6年まで延びている線を50%から始まるように平行にずらすことで入居年数ごとの現存価値が分かります。 横軸は入居年数です。入居年数が経過すれば、当然残存価値も減少していきます。 耐用年数ごとに場所と修繕工事の負担単位を記載しています。
壁紙(クロス) 基本は㎡単位・柄や色などによっては一面単位 ※タバコによる汚損の場合は部屋全体 クッションフロア・カーペット 複数個所の傷や洗浄で落ちない汚れは部屋単位 冷暖房(エアコン等) 電気冷蔵庫 ガス機器(ガスレンジ) インターホン 設備の補修、交換
流し台(シンク) 設備の補修、交換
金属製以外の家具 書棚・たんす・戸棚・茶だんす等 設備の補修、交換
トイレ・洗面台等の給排水・衛生設備 主として金属製の器具・備品 設備の補修、交換
外部リンク東京都庁:賃貸住宅トラブルガイドライン
フローリング 基本は㎡単位・複数個所の場合は一面 ユニットバス・浴槽 補修・交換 柱や建具 補修・交換
では、実際いくらくらい費用がかかるのでしょうか?原状回復費用の相場についてまとめました。
原状回復の負担区分、原状回復費用の相場をご紹介し、故意過失や通常使用に当たらない傷や汚れについての負担内容と概ねの費用の検討はついたと思います。
退去する際、管理会社や大家さん立会いのもと、原状回復箇所の確認を行います。その上で原状回復費用の入居者負担分が伝えられます。一般的に契約時に敷金を預け入れていますので、敷金の範囲内であれば、敷金から原状回復費用の実費を差し引いた、残金が引き渡し後1か月から1か月半後くらいまでに指定の口座に振り込まれることで敷金の退去時精算が完了します。 なお、原状回復費用が敷金を上回った場合は、別途原状回復費用を支払わなければならなくなります。退去するということは、あらたに賃貸物件を借り換えるか、マンションなどを購入している
ことがほとんどです。出来る限り追加で原状回復費用を支払うような事態は避けたいものです。
それでは最後に、これまでのまとめとして、退去時精算費用を抑える為に入居時に出来ることをまとめました。引越し作業を終えた後に行うと余計に手間がかかったり、細かく確認できないこともあります。荷物の搬入前や、引越しと同時に対策をしましょう。
一般的に契約時に室内チェック表を不動産会社から渡され、鍵の引き渡し後2週間以内に返送するように指示されることが多いです。これはレンタカーを借りるときと同じで、元々の傷や汚れをチェックするとても大事な作業です。ここでチェックの漏れや、リストを返送しないと、室内の全ての傷や汚れが自分の責任と言われても、言い訳が出来なくなってしまいます。引越し作業を終えた後では荷物が搬入されてしまい、傷の箇所が分からなくなってしまいますので、可能であれば鍵の引き渡しを受けた後そのまま、契約した物件に行き、チェックリストの記入を行うことをおすすめします。 また、チェックをした傷の箇所は、写真を撮っておくようにしましょう。引き渡し時のチェックリストは物件の室内、またはポストに入っていることもあります。契約時にチェックリストを渡されなかった場合は不動産会社に聞いてみましょう。 それでもリストがない場合はEメールなど日時がわかる方法で、傷や汚れの箇所と写真をまとめたものを不動産会社に送るようにしましょう。※送付先は担当者ではなく担当部署もしくは会社宛に 作成したチェックリストは複写式であれば写しを、複写式でなければコピーをとって、契約関係書類と一緒に保管するようにしましょう。
重たい家具を配置してクッションフロアやカーペットがへこんでしまうことは通常損耗の範囲ですが、引越し作業や家具の配置変えなどでひっかき傷をつけてしまった場合、過失として入居者の負担になる可能性があります。 保護パットを貼っておけば移動させてもひっかき傷や、床へのへこみも発生しにくくなります。100円均一でも購入することが出来ます。一人で貼るのが不安な人は、引っ越し屋さんに保護パット貼りたいと伝えて、家具を配置してもらうタイミングで貼りましょう。 右画像 ダイソー 価格:各110円(2022.10.20現在) 参照元:ダイソーネットストア
油汚れも通常の清掃をしていない場合は入居者負担になりえる場所です。 アルミのパネルだとちょっとダサいなという人には、油汚れを防止するキッチンシートというものが、ネットで1,000円ちょっとで購入できます。 半透明で目立たないものや、タイル調でかわいいものなどデザインもいろいろとあります。引越しのタイミングで貼っておきましょう。
右画像 メーカーBirllaid社 価格1,299円(2022.10.20現在) キッチンガステーブル油防止シールサイズ40com×10cm 参照元:AMAZON.co.jp
冷蔵庫の足も、へこみについては通常損耗にあたりますが、鉄さびが発生した場合は、入居者の過失に当たる可能性があります。冷蔵庫の足の下を掃除することなどなかなかありませんので、ここも引っ越し時に対策をしておきましょう。 ゴムマットなども販売されていますが、2000円くらいと、そこそこ値が張りますので、引越しの際に出る段ボールを敷いておけばまず問題はありません。 いっしょに冷蔵庫裏にも一枚段ボールを挟んでおけば電気焼けも防ぐことが出来ます。(壁からは3cmは離すように)電気やけは通常損耗なので大家さんの負担区分ですが、どうせやるならケアしておけば、退去するとき大家さんが綺麗に使ってくれたと喜んでくれるはずです。
以上原状回復についての解説でした。少し難しい内容が多いので頭に入りにくいかもしれませんが、何故、そのような責任があるのか、何故、そのようなお金が請求されるのかがわかれば、対策も講じられます。一度住んだ場所は愛着がわくものです。退去する際にトラブルなく、気持ちよく引き渡せるよう、皆さまのヒントにしていただければ幸いです。
最後までご覧いただきましてありがとうございました。
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